令和2年度「生産性向上勉強会(茶業部門)~働き方改革対策~」
いつも大変お世話になっております。
鹿児島県農業法人協会事務局の坂口です。
12月16日に、若手企画研修会「生産性向上勉強会(茶業部門)~働き方改革対策~」の勉強会を開催しました。当日は、茶業経営の鹿児島県農業法人協会会員のほか、公益社団法人鹿児島県工業倶楽部の「工農連携研究会」のメンバーの方など、35名が参加しました。
開催にあたり会員の鹿児島堀口製茶有限会社さんが全面協力。研修室をお借りしたほか、社員さんに受付・検温をしていただきました。また会場内は定期的に換気するなど、新型コロナウイルス感染症対策をとって実施しました。
【勉強会】
1 あいさつ 鹿児島堀口製茶有限会社副社長 堀口大輔氏
鹿児島堀口製茶の創業者は大輔さんの父・堀口泰久さん。畑地灌漑(かんがい)施設を用いた防霜や化学農薬だけに頼らない茶栽培、日本最大級の荒茶工場の整備など、様々な取り組みをされてきました。大輔さんは挨拶で「会社全体で父のチャレンジ精神を受け継ぐのはもちろん、父が取り組んできたことを、社内できちんと共有できる仕組み作りが必要。そのためのスマート農業だと考えています」と話されました。
2 事例・情報提供
(1)鹿児島堀口製茶有限会社の取り組みについて
鹿児島堀口製茶有限会社 茶園管理部部長 小牧健太郎 氏
経営茶園面積270ha(自社120ha、系列150ha)と国内最大級の生産能力をもつ製茶工場を有している鹿児島堀口製茶さん。社員はパートさんも含め73人を数えます。小牧さんは茶園管理の責任者です。
鹿児島堀口製茶さんには創業者の「YASUHISAイズム」として
・今がベストだと思わずに常に新しい発想を
・絶えず改善に取り組もう、できないとあきらめないでやってみよう
・どうやればいいのかちゃんと考えよう
・なによりもまず計画性をもって行動しよう
・新しい考え、新しい方法を試してみよう
を社員全員で共有してお茶作りに取り組んでいます。
今回の説明で小牧さんは、特に①海外輸出対応に向けた「IPM栽培」、②働き方改革として「スマート農業」を説明されました。
特に、茶園管理に携わっていらっしゃる立場として、「茶の世界は農業でも機械化が進んでいる方ですが、摘採機を操縦できる人を育てるのは時間がかかるし、広い面積にしっかり対応しなければいけない。ロボットでの茶園管理体系を一層進めていかなければ」とお話しされています。
視察対応や説明は大輔さんがされることが多いようで、緊張されていた小牧さんでしたが(笑)、しっかりと取り組みを説明されていて、経営理念が社員さんに確実に浸透されていると感じました。
鹿児島堀口製茶有限会社のホームページはこちら
(2)日本茶業は生き残れるか!~農業を楽しくスマートに~
農研機構枕崎茶業研究拠点
枕崎研究調整監 根角厚司 氏
農研機構(のうけんきこう)は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の略称です。根角さんは、農林水産省の「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」の中で、IoT技術・ロボット化技術を活用した大規模スマート茶業一貫体系の実証に、今回発表いただいた鹿児島堀口製茶(有)、テラスマイル(株)をはじめとした関係者と連携し、取り組んでいらっしゃいます。
「多目的畑地灌漑(かんがい)装置」や、「ロボット茶園管理機」、「情報の一元化」といった、鹿児島堀口製茶さんでの実証結果を披露いただいたほか、これからの日本茶業が生き残るために、茶業におけるスマート農業へのチャレンジ、日本茶を世界に売っていく!新品種「せいめい」を核にしたSFC(スマートフードチェーン)構想などについて説明されました。
根角さんは「どの業種でも、人手不足解消と所得向上なくして農業は持続できない。機械化や雇用確保、高付加価値化やコスト削減のため、先端技術を活用するスマート農業を実現したい。もちろん導入にはコストがかかり、経営規模によってはメリットを感じないこともあるかもしれない、 しかし経営の中でネックになっていること、経営的なマイナス要因、早急に対応が必要なリスクを整理し、必要な技術から取り入れていくことが大事」とお話しされました。
農研機構の「スマート農業実証プロジェクト」はこちら
(3)集積したデータを活用する仕組みづくりなどについて
テラスマイル株式会社 代表取締役 生駒祐一 氏
宮崎県の新富町にあるテラスマイルさんは、「RightARM」という分析システムを開発し、「情報の視える化」「データ連携」「傾向予測」「計画自動化(シミュレーション)」「モデリング(目的達成の指針開発)」「診断・効果検証」といった支援を、宮崎県や鹿児島県を中心に行っています。
スマート農業の進展によって、ドローンや環境制御、栽培管理システムなど様々な機器が導入され、蓄積されるデータも膨大になっていきます。せっかくのデータも経営に活用しなければ意味がありません。生駒さんは、「創業者の堀口泰久さんが培ってきたノウハウを活かすためにも、勘や経験値を、”形式知”として表すことが、人材育成や技術向上にもつながっていく」と話されています。
テラスマイル株式会社のホームページはこちら
質疑応答の後は、現地視察へ!ロボット摘採機の登場です♪
みなさん興味津々で視察し、堀口副社長や小牧係長に熱心に質問していました。
特に、一つの畝を摘採した後、隣の畝に移動するときの切り返しはすごい!と思いました(動画がなくてすみません(^^; )
今回は鹿児島堀口製茶さんの広くまとまった茶園での視察でしたが、スマート農業には「農地の集積・集約化」が不可欠であることを、一般社団法人鹿児島県農業会議の職員として実感しました。
今回の研修では、鹿児島堀口製茶の堀口大輔さん、小牧健太郎さん、関連会社の(株)大隅ティーナリーの山迫祐太さん、農研機構の根角厚司さん、テラスマイル(株)の生駒祐一さんに大変お世話になりました。やはりプロジェクトの打ち合わせを通じて、頻繫に顔をあわせていらっしゃるだけあって、会の進め方もスムーズ、現地での質問にも適宜対応いただきました。
ありがとうございました!!
<番外編>
当日は、勉強会の後、農業法人協会会員と工業倶楽部「工農連携研究会」のメンバーとの意見交換会も開催されました。こちらの模様は、別の機会に紹介します。
さて、勉強会の質疑応答の中で、工業倶楽部の参加者の方から農研機構の根角さんへ「農家にはマーケットインの発想がなく、良いものを作りさえすれば良いと考えている」という旨の質問があり、根角さんは農業者全体のことを捉えて回答されました。
私は司会の立場にも関わらず、「鹿児島県農業法人協会会員の中には、そのような人はいないと考えます!」と話してしまいましたが、これは他産業の方が持つ農業の一般的なイメージなのかと、改めて実感しました。
鹿児島県農業法人協会では、例えば農業法人ファーマーズマーケットなど、農業のイメージアップのための様々な取り組みを行っていますが、今回のように、会員さんがスマート農業を実践している事例など、機会をとらえて紹介してきたいと考えました。