第10回食と農を結ぶ交流フォーラム
いつも大変お世話になっております。鹿児島県農業法人協会事務局の坂口です。
1月13日に「第10回食と農を結ぶ交流フォーラム」を、(株)日本政策金融公庫鹿児島支店 農林水産事業さんと共同開催しました。当日は会員や公庫お取引先など、オンライン参加も含め114人の農業法人や食品関係企業等の参加がありました。
1 あいさつ
毎年、県内の食と農に係わる企業・団体が一堂に会し、経営に必要なノウハウや情報の交換を通じて、経営発展と地域活性化に役立てようと企画しているこのフォーラム。
節目の10回目を迎えた今回のテーマは「事業承継」。築き上げたノウハウを次代につなぐため、事業承継の必要性、円滑に進めていくことの重要性を認識してもらうことをねらいにしています。
司会は、フリーアナウンサーの有賀真姫さんです!
2 新春記念講演「ムネリン、ふるさと・鹿児島で次世代教育、経営、食と農への思いを語る!」
プロ野球選手 川﨑宗則 氏
第1部はなんと!ソフトバンクやメジャーリーグで活躍し、現在は独立リーグ「栃木ゴールデンブレーブス」に所属される川﨑宗則選手の講演会。テーマ検討の際、公庫の阿部支店長から、「コロナで暗い話題が目立つが、明るい話題を提供できる方の講演を」とご提案。当協会の肥後会長と川﨑選手のお母様が以前から懇意にされていた縁で実現しました。(写真掲載は川﨑選手サイドから許可をいただいています)
講演は、司会の有賀真姫さんとの対談形式です。
講演では、川﨑選手が野球人生から学んできたことや、故郷・鹿児島の食と農への思いを熱心に語っていただきました。ほんの一部ですが紹介します。
(自主トレでの出来事)
最近の若手は全然声が出ない。野球がうまいのは当たり前、プロはしぐさ、たたずまいから全部ふくめて、お客様から人気が出てなんぼの世界。「これじゃどの球団もスカウトしてくれないぞ」とはっぱをかけている。どこにチャンスが転がっているかわからない、チャンスをつかむ「きゅう覚」を持つことが大事。
(中学時代のエピソード)
指導者にあたる人がいなくて、練習メニューからみんなで考えながら自由にやっていた。とても楽しかった。素人集団だったが、県大会ベスト4までいけて達成感があった。子ども達への指導は、子ども達が自分で考える・自分で行動することが大事で、「やらされてる」と思わせたらだめ。ちなみに、メジャーリーグではチーム練習は午前で終わり。その後は自分で練習メニューを考えないといけない。
(入団時に心掛けたこと)
合宿初日に先輩方とお風呂に入り、プロレスラーみたいな体をみて「もうやめよう」と思った。しかし、
1年目は環境に慣れる(身体作りに専念した)
2年目は良い人間関係をつくる(自分に合う先輩についていき、話をしっかり聞く)
3年目に仕事に向き合う
という、先輩のアドバイスを実行して、プロ野球選手・川﨑宗則になれたと思う。
すぐに結果を残そうとするのではなく、いったんあきらめて自分を見つめ直すことも大事。
(頭の中を休めることが重要)
経営者の皆さんは、何かしら悩みを持っていらっしゃって、頭の中がぐるぐる回っていることがあるかもしれない。私はマインドフルネス瞑想という方法で整えているが、皆さんも頭の中を休めることを心掛けてほしい。好きな趣味をする、美味しいものを食べる、よく寝ることでも、何でもいいと思う。いったん(心の)電気を切ることは全然悪いことではない。
(鹿児島の食と農への思い)
鹿児島に帰る楽しみは美味しい食事。「鹿児島人」として本当に誇りに思う。例えば、自主トレで(他県の人に)鶏刺しを振る舞うと、みんな最初は大丈夫かと心配するが、食べたら「こんなうまいもの初めて!」とびっくりする。
これだけ魅力的なものを作っていらっしゃるのだから、農家の皆さんはもっと高く売って良いと思う。日本はもちろん世界には、良いものにはお金に糸目をつけずに買ってくれる人はたくさんいる。
鹿児島の美味しいものを、もっと世界に発信して欲しい。私もぜひ協力したい!
質疑応答ではプロ野球のスカウトのしくみや、鹿児島の野球人口の底辺拡大について応えていただきました。
予定の1時間はあっという間に過ぎました。ご自身をしっかりマネジメントしつつ野球人生を歩んで来られた川﨑選手の講演に、多くの方が経営の参考になったと考えます。私は、鹿児島の食と農への深い愛情を注いでくださっている川﨑選手に、ますますファンになりました!少年野球の指導者としても評価の高い川﨑選手。これからの活躍にますます期待ですね。
有賀さんの話題の引き出し方も素晴らしかったです!ありがとうございました。 川﨑宗則選手のInstagram はこちらからhttps://www.instagram.com/mune.kawasaki.official/
3 研修「テーマ:事業承継」
(1)基調講演「農業・食品産業における事業承継の概要」
講師:株式会社さくら優和コンサルタント 代表取締役 新德博幸 氏
鹿児島市で企業再生や事業承継、Ⅿ&Aの支援業務を行うさくら優和コンサルタントの代表を務める新徳さん。事業承継の現状や意義、やり方について具体的に講演いただきました。
(日本の中小企業の事業承継の現状)
中小企業は2年間(2014年から2016年)で約23万件(381万→358万)も減った。その原因の多くは倒産ではなく後継者不足による休廃業だったと見られる。休廃業した企業の6割が黒字。また、60歳代で約半数、80歳代でも約3割の経営者が後継者不在だ。農業分野でも鹿児島県で約77%、全国で約71%の農家は後継者が決まっておらず、事業承継への取り組みは待ったなしの状況。
企業の継続のためには、人材確保が最優先。5年後、10年後をみると企業内のどの部署でも、ある人が引退し欠員が生じる。その人が引退するまでの間に組織の新陳代謝、育成の準備をすべき。代表者だけでなく従業員の間でも、次世代にバトンタッチしていく意識付けが必要。
(事業承継の意義)
承継には「親族間承継(子や婿)」、「会社内承継(役員や社員へ)」、「第三者承継(Ⅿ&Aも含む)」の三種類か、廃業しかない。事業承継は相続対策ととらえがちだが、違う。税金はやり方次第でなんとかなるものだ。資産だけでなく「経営」も引き継ぐわけで、先代の持つノウハウや理念など経営の承継の方が難しい。経営と資産を同時に承継するケースが多いが、「民事信託(経営と資産を分離して承継)」や「ファンド(投資家から資金を集めて投資)」の活用もある。
(経営の承継にあたってのポイント)
1 経営理念の承継
2 組織管理・組織運営の承継
3 得意先、取引先との関係性(相手方にも事業承継が発生している!)
4 従業員との関係性(コミュニケーションができているか)
5 事業の将来性(今の事業が時代にあっているか、新たな事業を展開できるか)
6 経営者としての係数感覚(Ⅿ&Aのメリット)
Ⅿ&Aは昔のような「会社乗っ取り」ではなく、経営戦略の一つとしてとらえられている。「売り時は自分が売りたくない時」という言葉もあり、タイミングが大事。効果として①ヒト(人材不足の解消、業務効率化)、②モノ(グループ会社の資産活用の恩恵)、③カネ(与信力アップによる資金調達力の拡大)、④情報(新しいノウハウの取得)などメリットも多い。スピーディーに進むし経営発展につながる。創業者にとってはハードルが高いようだが、選択肢の一つとしてとらえてほしい。
小さい時は、南九州市川辺にある親戚の農家のお手伝いをされてきた新德さん。慣れ親しんだ農業でも、なかなか事業承継が進まないことに心痛めていらっしゃいました。
「ゆずる側の人が決断しないと何も進まない」「早く取り掛かることにデメリットは何もない」「まだまだ任せられないと感じていても、準備を進めてほしい」「私は、鹿児島の企業を1件も廃業させたくない!」と熱く語っていただきました。
(株)さくら優和コンサルタントの支援内容はこちらからhttps://sakura-consultant.com/
(2)事例発表1
発表者:有限会社南橋商事会長 南橋茂 氏
鹿屋市でサツマイモ「紅はるか」を生産される(有)南橋商事さん。タイ、シンガポール、マレーシア、カナダへの海外輸出や6次産業化など意欲的な取り組みや事業承継のエピソードなど、以前ホームページに紹介していますので、こちらもぜひご覧になってくださいね。
約40年間代表を務められていた南橋さんは、ご自身の入院を機に、2016年に当時の専務、矢羽田竜作さんに会社を譲られました。矢羽田さんは福岡県のご出身。親族関係にない従業員への承継は、現在でも珍しいパターンです。
「収穫時期に私がいなくても、問題なく会社を回してくれたのが決め手になった」とのこと。ご自身は会長となり主に配送業務に従事されています。
「ひとつだけ決めていたことは“口出しをしない”。やれるところまでやらせて、助けが必要な時だけ手を貸そうというスタンス」と南橋さん。現社長の矢羽田竜作さんも経験を積まれ、地域の農家さんから頼りにされる存在になっていらっしゃいます。
また、「人に恵まれたので、社長にしたい人材が育ってくれていた。なので、人材育成はしていない」とも話される南橋さんですが、参加者の多くは多分、そのようには思っていないようでした(笑)。おそらく南橋さんが意識されないところで、矢羽田さんは南橋さんから様々なことを吸収されて来られたのでしょうね。
南橋さんの横でパソコンを操作しているのは、入社6年目、営業と商品開発の部長を務める牧谷滉平さんです。彼をはじめ多くの若い方が活躍されている南橋商事さん。ますますの発展に期待ですね!
南橋商事さんについて詳しいことはこちら https://imonosora.co.jp/
(3)事例発表2
発表者:有限会社本家文旦堂 代表取締役 上水流亮 氏
南橋商事さんは譲る側でしたが、承継を受けた側として、姶良市で菓子製造業を営む、(有)本家文旦堂の上水流亮社長さんの事例発表でした。本家文旦堂さんといえば、「西郷せんべい」でおなじみですね♪
本家文旦堂の代表も兼任する親会社の社長さんが、高齢になったことにより検討が始まった事業承継。親会社が県外で、第三者への売却が検討されましたが、当時統括部長をされていた上水流さんはじめ、主力の従業員3名が事業承継を強く希望しました。
「50年以上続いてきた、西郷せんべいを終わらせてはいけない」「従業員の雇用を守る」「そのためには地元資本の会社でないと」の思いで、持株会社による株式取得を計画。日本政策金融公庫さんや地元の銀行さんから協調融資をいただき、親会社から株式譲渡を受け、本家文旦堂の新役員で株式を取得。2019年に事業承継が完了しました。
旧親会社との取引は継続しつつ、OEM商品企画を強化しようと新規協力メーカーを開拓。新商品開発のスピード化を図り、設備投資も実施されました。コロナ後の生活様式の変化に対応しようと、生産効率を上げ、適正な利益、従業員の幸福(満足度)の追求を目指していらっしゃいます。
承継を目指した従業員の中では、一番若かった上水流さん。社長に選ばれた経緯を、「たまたま営業担当が長くて取引先を知っていただけですよ」と謙遜されていましたが、上水流さんだから、承継に当たって従業員の皆さんや旧親会社さん、取引先や金融機関の信頼を得られたのだろうなと、参加者から意見が寄せられていました。 本家文旦堂さんについて詳しいことはこちらからhttps://www.instagram.com/honkebontando/
今回のフォーラムでも名刺交換の時間を設けていましたが、スケジュールがおした関係で十分時間がとれず残念でした。しかし、参加者の皆さんはフォーラムの前後で会場のあちこちで交流されていました!
当日参加された方の感想です。
(有)コセンファーム会長の古川拡さんは、「昨年12月に娘婿へ社長を交代したので、南橋さんの話は興味深かった。取引先や地域の農家との顔つなぎなど、従業員への承継は大変かなと思ったが、スムーズにいって素晴らしい。社長さん本人の努力はもちろんだが、“南橋さんが選んだ人だから”という信頼感もあるのだろう」と感想を寄せられました。
また、ある農業法人代表者(名前はふせます)からは、「どの話も参考になった。特に新德さんの講演にあったファンドの話は、新たな事業展開の手段として関心がある。アドバイスを受けてみたい」と話されていました。
法人は個人よりも事業承継を実施しやすい仕組みであると言えます。事業承継は経営者の方であれば、遅かれ早かれ、いつかは検討し実行しなければならないもの。ぜひ今後の参考になれば幸いです。
フォーラム当日は、新型コロナウィルス感染者が増加傾向にある時期でしたが、予定通り開催でき成功裏に終了できたことに、共催の公庫さんをはじめ講師・発表者等関係者の皆さまに厚く感謝しております。来年度も開催を計画してまいりますので、ぜひご参加ください。